たどし認定こども園かぜっこ
調理師 髙橋美妃
『保育資料 まことの保育』2022年10月号 掲載
私たちの「かぜっこ給食」は、こども園の保育目標にあ る「待つことができる保育」という考えのもと取り組まれ ています。
私たちの保育における「待つ」こととは子どもの主体性 の尊重であり、子どもとおとなの人格的平等とねばり強い 対話のための関係づくりを意味します。大切なのは、ただ 単に子どもの反応や行動を待つということではなく、きち んと保育者の思いや考えを子どもに伝え、見通しを示した うえで子どもとおとな、相手との共感と合意を得る努力を 続けていくことだと考えています。
これを私たちの園の食育になぞらえると、子どもの嗜好 をもとにした「食べたい」給食からもう一歩踏み込んで、 子どもたちが「食べたくなる」給食づくりのための配慮や はたらきかけ、仕掛けづくりということになります。
つまり、子どもが食べ慣れた好きなものだけを食卓に並 ベるといった受動的な姿勢ではなく、「食べるってこんな に楽しいこと!おもしろいこと!」を園から子どもや家庭 へ積極的に提案していくことを心がけています。
「苦手でもひとくち食べてくれると嬉しいな」といった保育者の気持ちを子どもへ誠実に伝え、一日の保育のながれに給食の時間を見通しをもって示します。
そして、どこまでも子ども自身の自己決定を尊重し、応援し、達成も失敗も分かち合う。子どもの気持ちの変化を大切に「待つ」ことから「食べたくなる」給食は実践されています。
〇山菜採り ~ うど(天ぷら、油炒め、酢味噌和え)、よもぎ(よもぎ入り白玉団子、よもぎ食パン)、わらび(マヨネーズ和え)、落葉きのこ(みそ汁)
地域の人に応援していただきながら、子どもたちで採取します。
給食室ではアク抜き、下処理。事前に生育状況と安全確認をします。
〇畑づくり ~ 子どもたちと相談して作りたい野菜を決める。自分たちで育てた野菜の収穫をしてミニトマトなどその場で採って食べる楽しさを伝える。
〇おとまり会 ~ 年長児3回、年中・年少児1〜2回 夕食と朝食づくり。
年長さんは登山のキャンプでも食事づくりをします。
〇異国の料理に触れる ~ 韓国・在日コリアンの保育者と作るプルコギやチヂミ。ドイツ出身保育者による欧州の食文化多様な食に触れて、外国のあいさつや文化体験も楽しむ。
〇日常からチャレンジ ~ 給食の野菜等の下処理(レタスちぎり、おいもつぶし)、ビュッフェ形式、自分でご飯の盛り付け、おにぎりづくり。配膳、おやつづくり(年長児)
提供されるだけでなく、自分たちで給食づくりに関わり、興味を持ってもらう。
残食をふせぎ、完食のために自分の食べられる量を自分で把握する。
〇戸外給食 ~ 子どもたちが外で火を起こして調理をする。
かぜっこでは戸外給食の日があります。子どもたちは近所の森に枝拾いに行き、大きな木は自分たちで斧やのこぎりで薪割りし ます。年長さんは火おこし担当です。
ドラム缶を半分にした大型コンロではお好み焼き、鮭のちゃんちゃん焼き、焼きそば、焼うどんなど鉄板焼きが活躍します。 屋外の薪ストーブには鍋を載せて豚汁やカレーづくりに使われます。調理の過程も、皮むきや包丁で切るだけではありません。3歳未満児も保育者と一緒にきのこをほぐしたり、キャベツをちぎったり、コンニャクを潰したり、全員参加の調理です。
自分たちで下ごしらえした様々な食材が鍋や鉄板で調理されていきます。火を扱えば熱いし、やけどの心配もあります。保育者は声をかけながら、子どもたち一人ひとりの様子を出来るだけ見守ります。
長い時間の集中は子どもも大変なので、野菜切りをがんばった子はブランコへ。園庭で自転車をこいでいた子に交代です。戸外 給食の調理も自分たちの意欲と関心が向いてこそ、ていねいに粘り強くごはんづくりと向き合うことができます。
自分たちでつくることの大変さと楽しさ、そして出来上がりを 楽しみに待つことで、普段以上においしい給食の出来上がりです。そのまま冬でも雪の上にテーブルを並べて、おひさまの下でいただきます。みんないい顔をして食べています。
かぜっこ給食室は、そんな戸外給食をお手伝いしながら、毎日 の食を通じて子どもたちと関わる時間を大切にしています。
◆素材がいい!
北海道には、おいしい食材がたくさんあります。 地産地消•有機・無農薬•無添加をキーワードに、 放射能汚染にも気をつかっています。
◆味がいい!!
旬の食材、季節に応じた献立を心がけています。 一番おいしい時においしく食べられる工夫と、うす 味で和食の味付けをベースにしています。
◆見た目もいい!!
俗にいう「茶色い給食」は食べる子どももがっか りです。食べたくなるために切り方、盛り付け方、 色合いにも気を配ります。
◆最後にまほうの言葉を忘れない「おいしくなーれ!!」
食べる側とっくる側がお互いに顔の見える関係、声のとどく距離にいる自園調理の強みをいかし、み んなで食べる時間、空間、交わす言葉が一段とごは んをおいしくさせます。
新型コロナウィルス感染症の感染拡大が続くなかでも大切な保育の要素として私たちが守っ てきたこと。これが私たちのかぜっこ給食です。あなたも食べたくなったでしょう?
たどし認定こども園かぜっこ
栄養士 野田恵美
『保育資料 まことの保育』2022年11月号 掲載
当園かぜっこでは、ほとけの子を育てる「インクルーシブ保育」 を理念にかかげています。インクルーシブとは障がいのある子だけでなく、さまざまな個性や特性をもった子どもも、おとなも、一人ひとりが共に育ちあう保育であると考えています。
かぜっこのインクルーシブ保育は食育においても実践されてき ました。
アレルギー完全除去のなかよし給食
どの園でも食物アレルギーの対応に苦心されていると思います。当園もかっては食物アレルギー児の家庭には除去食の個別対応やお弁当の持参をお願いしてきましたが、それでも誤配や 誤食はなくせませんでした。
そんなとき、園長先生から提案されたのはすべての給食で卵 と乳を使わない完全除去食への移行でした。「友だちといっしょに遊んでも、ごはんだけは離れたテーブル。おかわりも自由にできないのは、仕方のないことなのだろうか」
そもそもが子どもの権利として、「みんなと同じものが食べ られない」ことが見過ごされていました。
園児にとって本人も周りの子どもも「食べてはいけない」食品を理解すること自体、容易ではありません。また、アレルギーによって周りの子との「ちがい」を強いられる子の寂しさや疎外感は、その子に劣等感さえも植え付けかねません。
子どもの人権を尊重した、合理的配慮として、いつも好きな 子のとなりで会話を楽しみながら食べることが出来る「あたりまえの給食」を保障するために、アレルギー除去の「なかよし給食」のとりくみが決まりました。
献立の全面的な見直しはもちろん、卵•乳は食材だけでなく カレールウや調味料、さらには職員室のお菓子にいたるまで、園内の食に関するすべてのものから完全除去を目指しました。
ハンバーグは、つなぎの卵の代わりに塩で粘り気を出し、片 栗粉で代用できます。
フライやコロッケも卵なしの衣で充分です。コーンスープ、 シチュー、グラタンは豆乳でも栄養価が高くおいしくできます。
こうして、少しずつ新たなメニュー開発のための試行錯誤が 続きました。
パンも自分たちで焼いてみる
どうしても市販品で代替できなかったものもあります。パン は冷凍の米粉パンを遠方から取り寄せたり専門業者さんを探したりしましたが、納得のいくパンが見つかりません。
結局、見つからないなら「自前でパンを焼こう」ということになりました。すぐにベーカリーが給食室に届き、食材も地元産の小麦粉を配合して味の調節など試作を重ねました。
現在のかぜっこ食パンは、強力粉(北海道産)、三温糖、塩、オリーブオイルと水だけでふっくら甘くておいしいと子どもや家庭からも好評です。
さらに自前で焼ける 強みをいかして園で採れた野菜やよもぎを練り入れたり、ラスクやドーナツにも発展 していきました。
子どもたちが大好きなラーメンはつなぎに卵が入っているため、しばらく献立から 姿を消しました。
幸いにも北海道でアレルギー対応の製麺所が見つかり、喜んでくれると期待してラーメンを出したのですが、その日、アレルギー児の子は一口だけ食べ て残していました。
生まれてから一度もラーメンを口にしたことがなかったのですから仕方ありません。
お母さんにおうちの夕食でも試してみてほしいと、卵なし麺を手渡しました。おうちでも食べ慣れてくれたのだと思います。その後は大好きなメ ニューになりました。
•家庭の反応
完全除去のなかよし給食をはじめた当初は、家庭からも栄養面や味を心配する声が ありました。
園からは、著しい栄養の偏りや不足がなければ「みんながいっしょに食べられること」を大切にしたいという考えを示し、メニューの工夫を続けていくことを説明しま した。クラス懇談会では、それでも園の説明に納得がいかない様子の保護者を前に、 その場に同席していたアレルギーを持つ子の保護者みずから、普段の食事や外食での 大変な様子や、園が対応してくれたことへの感謝の気持ちをお話しして下さいました。 家庭と共にあゆむ大切さを感じたエピソードです。
完全除去食の実施によって子どももおとなも不要なストレスがなくなり、『食べる』 という当たり前のことを保育現場から見つめなおすよい機会となりました。
子どもの食をめぐっては、貧困や格差、家庭環境によって『食べる』ことを楽しめ ない子どもも増えています。食のインクルーシブは、子育て家庭の支援でもあります。
おいしいものを食べると、人は笑顔になります。子どもの人格形成のなかに「食」 の持つ意味をあらためて位置付け、子どもたちの笑顔のために、これからも給食を作っ ていきたいと思います。
【園長より】
かぜっこの給食室は食の安心・安全にも配慮してくれています。食材の地産地消や自前の畑づくり、減農薬・ 有機食材の比率を高める努力も続けてくれています。
また、2011年の東京電力福島第一原発事故以降、避難移住家族や一時保養の親子を受け入れてきた経験から、食品の放射能汚染についても意識してきました。
今後も食育をいのちや社会と密接に関わる保育の中心課題に考えていきたいと思います。
「たどし認定こども園かぜっこ」の食と安全について
◆食育推進の一環としてアレルギー対応給食を実施します。
従来からの和食を中心とした薄味で素材を大切にした給食に、牛乳と卵の不使用を加えた「なかよし給食」を行っています。
これまで、食物アレルギーのある子どもは、アレルゲン(アレルギー反応を起こす物質)を除去した個別の献立で、事故を防ぐために違う色の食器でほかの子どもとは別々に給食が提供されていました。
「みんなと同じものが食べられない」ことを、本人も周りの子どももきちんと理解するのは、保育園児にとって容易ではありません。むしろ、アレルギーによってほかの子との「ちがい」を強いられる子のさみしさ、悲しさ(疎外感)を何とかしたいと考えました。
「それなら、みんなが一緒に食べられる給食にしよう」。すでにアレルギー除去食をすべての給食に導入している大阪のおおわだ保育園、千歳市の前例を参考に、たどし認定こども園かぜっこの「なかよし給食」の取り組みがはじまりました。
激しいアレルギー反応であるアナフィラキシーショックは、後遺症や死に至る危険性があります。給食室も保育者も常に緊張し、本来は楽しんで食べる給食時間にもかかわらず、ピリピリした空気が漂っていました。
「なかよし給食」では誤配や誤食の心配もなくなり、いつも好きな子のとなりで会話を楽しみながら食べられる日常風景が取り戻せました。
除去食と聞くと、野菜中心の色どりの乏しい食事を想像する方もいて、導入当初は栄養面でも不足がないか心配する声がありました。
たどし認定こども園かぜっこの給食は、従来から和食を中心とした地元食材によるシンプルな献立で、牛乳と卵を除いても変わらないおいしさを維持しています。栄養面でもカルシウムなどは魚などから補い、よりヘルシーになりました。
なかよし給食の献立づくりにあたり、乳・卵を使用しないパンを園で自前でつくることにしました。小麦粉も道産有機小麦で、乳も卵も使わない焼きたてフワフワの自家製パンからは自然な甘みが感じられます。
ラーメンなどの麺類も完全不使用の製麺所から取り寄せし、必然的に大量生産で添加物が心配な加工品やレトルトは保育園の食材から姿を消しました。
地元の安心食材では、多度志産のゆめぴりか、北空知産の採れたて無農薬野菜、BLOOMさんのカンパーニュ、藤谷果樹園のりんごや果物、無添加ベーコンなどが大活躍しています。
「東京電力福島第一原発事故」の放射能汚染から子どもたちを守るために、2011年4月よりたどし認定こども園かぜっこ(旧・多度志保育園)では次の措置をとっています。
ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
◆安心・安全な給食食材(産地の確認・産地の制限・生産過程の追跡)
・2011年3月11日の福島原発事故によって事故由来の放射能汚染が確認された産地の食材は、一切使用していません。
・加工品は、国内産表記のものでも原材料の産地が確認できない食材は使用していません。(レトルト・冷凍食品・人工添加物の含まれる食品は使用していません。)
・葉物野菜等は北海道産を使用。冬季は西日本・九州産を使用し、季節に応じて入手困難な野菜は無理に用いません。(冬季は根菜類が中心のメニューとなります。)
・魚介類は太平洋・三陸・関東地方を除外し、西日本の安全性が確認された産地に限定して提供しています。
※市場流通段階で「放射能検査済」のものであっても、過去に検査データの改ざんや偽装事件、検査漏れや汚染食品の混入などが相次いで発覚していることから、産地制限を行っています。特に、乳幼児への影響を考慮した対応をとっています。ご理解をお願いします。
◆空間放射線量の測定
旧・多度志保育園では、2011年から2016年まで、園児の活動空間(園庭・園舎内・園児活動エリア)の空間放射線量の定期的な計測を行い、安全な保育環境をチェックしてきました。今後とも、必要に応じて計測を行っていきます。
2016年4月時点(μSv/h = マイクロ・シーベルト/毎時) |
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園庭(一乗寺境内地など) | 0.02~0.05 μSv/h | 積雪なし/乾燥地 |
園舎内(ホール・部屋等の平均) | 0.01~0.04 μSv/h | 5か所平均値 |
園児活動範囲(散歩コース等) | 0.02~0.09 μSv/h | 歩道、森林など |
※上記の数値は、自然放射線量の測定限界値(および機器の測定誤差範囲内)に近い値で、日常の園児の活動に影響を考慮する必要の無い、極めて低い値です(目安として、0.12μSv/h(マイクロ・シーベルト毎時)で年間約1mSv(ミリ・シーベルト)以下となります)。